フェルディナント・ホドラー《羊飼いの夢》

フェルディナント・ホドラー《羊飼いの夢》

作品図と詳細

フェルディナント・ホドラー《羊飼いの夢》

  • タイトル:羊飼いの夢(The Dream of the Shepherd, German: Der Traum des Hirten
  • 作者:フェルディナント・ホドラー(Ferdinand Hodler, 1853 – 1918)
  • 制作年:1896年
  • 種類:キャンバスに油彩
  • 寸法:250.2×130.5cm
  • 所蔵:メトロポリタン美術館

解説

ホドラーについて

ホドラーはスイスを代表する画家。パリが芸術の中心地であった19世紀末から20世紀初頭にスイスで活動を続け、世紀末美術や象徴主義に大きな影響を与えた。

1853年、ベルンの貧しい家庭に生まれたホドラーは幼少の頃から父母や兄弟を結核で相次いで失う。ホドラーは装飾美術職人の義父に絵画の手ほどきを受け、その後は画家に弟子入りし修行時代を過ごすが、死を身近なものとして感じながら成長した彼は人間の内面世界や心理の表現にひときわ関心があった。
修行時代にはコローやバルビゾン派らのフランス自然主義の影響を受けており、また1878年のスペイン滞在ではティツィアーノ、プッサン、ベラスケスなどの作品から学んだ。

風景画や寓意画を得意とし、名声が高まってからは愛国的なテーマで大規模な歴史画も手掛けた。

主題と表現について

画面下部は緑と岩の多い風景に囲まれるようにして、アルプスの若い羊飼いが手で顔を覆いながらしゃがみこんでいる。一方、画面上部の上空にあたる部分では8人の裸体の女性がモダン・ダンスを踊る連続写真のようにリズミカルに配置されている。

羊飼いのがっしりとした体躯は自然主義的な描写で力強く表現されており、周辺の岩も淡い色彩ながら重量感を伴っているのに対して、踊る女性たちは平行に走る青い雲の軽やかな空気の中で、淡く明るい色彩と線でレリーフのように描かれており、この世のものではないことを感じさせる。主題や女性の表現についてはホドラーが称賛したシャヴァンヌの《夢》(1883年)や《諸芸術とミューズたちの集う聖なる森》(1884 – 1889年頃)などの影響を感じさせる。

この非現実的な異世界は自然と人間の調和した理想の楽園か、あるいは羊飼いのエロティックな欲望の発露か。眠りや夢、死、愛といった人間の普遍的テーマに関心を寄せ続けたホドラーの野心作である《羊飼いの夢》は1896年にジュネーヴで展示されたが、挑発的であるとして批判を受けた。

自然主義と象徴主義を組み合わせたホドラーらしい表現は本作でも発揮されているが、代表作である1895年の《オイリュトミー》が示すように、1890年代はホドラーの関心が「リズム」の表現に向かう時期だった。
彼は類似する動作を反復させ、左右対称に描くことで画面上にリズムを生じさせることを「パラレリズム(平行主義)」と呼び、作品に応用していった。本作においても岩や女性、雲の表現に相称性や平行性がみられ、また風景の表現は1900年代以降の抽象化された風景画につながる要素を感じさせるものであり、ホドラーの絵画的な理念がつまった作品である。

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