フィリッポ・リッピ《開き窓の男女の肖像》

フィリッポ・リッピ《開き窓の男女の肖像》

作品図と詳細

フィリッポ・リッピ《開き窓の男女の肖像》

  • タイトル:開き窓の男女の肖像(Portrait of a Woman with a Man at a Casement)
  • 作者:フィリッポ・リッピ(Fra Filippo Lippi, c. 1406-1469)
  • 制作年:1440年頃
  • 種類:木、テンペラ
  • 寸法:64.1×41.9cm
  • 所蔵:メトロポリタン美術館

解説

フィリッポ・リッピは15世紀前半のフィレンツェ派を代表する画家の一人である。Fra Filippo LippiのFraとは修道士の称号で、中・近世のイタリア人の人名によく見られる。フィリッポ・リッピと同じくフラ・アンジェリコやフラ・バルトロメオも修道士の画家である。

リッピは幼くして孤児になり、カルメル会の修道院で育ち修道士となった。若い頃にカルメル会の聖堂の壁画(ブランカッチ礼拝堂の《貢の銭》が有名)を手掛けたマサッチオの薫陶を受けた。リッピの自然な空間表現や人物描写はマサッチオの影響が大きいと思われる。弟子にフィレンツェ派を代表するボッティチェッリがいる。

しかしリッピは50歳頃に修道女ルクレツィア・ブティと駆け落ち事件を起こすなど世俗的な傾向も強かった。息子で画家のフィリッピーノ・リッピはルクレツィアとの間にできた子である。

リッピは聖母像を多く残し、優美な女性像を得意としたが、リッピが描く聖母はルクレツィアをモデルにしたとされている。

《開き窓の男女の肖像》はイタリアの肖像画を特徴づける作品の一つである。現存するもっとも古いダブル・ポートレート(二人肖像画)で、室内を背景とした最初の作品と考えられる。概念的に構成された室内と風景が見える窓が特徴的。

フィリッポ・リッピ《開き窓の男女の肖像》

豪華なドレスと指輪を身に着けた女性の毛皮で縁取られた袖元には、金糸と小粒の真珠で「lealtà(忠誠、忠実)」と刺繍が施されている。夫、あるいは婚約者に忠誠を誓う妻が描かれている。男女は向かい合っているように見えるが、室内の奥行きの描き方で、男性はやや後ろに下がったように見える。本作品の主役は女性ということだろう。

美術史家のライトは、男性の横顔の影が背後の壁にはっきりと投影されているのは、プリニウスの『博物誌』にある「恋人の影の輪郭をなぞったことが絵画の起源である」という神話になぞらえたものだと説明する。
またボールドウィンも、旧約聖書の雅歌2章9節(わが愛する者はかもしかのごとく、若い雄じかのようです。見よ、彼はわたしたちの壁のうしろに立ち、窓からのぞき、格子からうかがっている。)と本作品の関連性を示唆している。
ルネサンスの人文主義者アルベルティは『絵画論』で、絵画を「開いた窓」に見立てている。ルネサンス期の画家や文学者にとって、窓は一つのキーワードになっていたようだ。ルネサンス期の肖像画には窓枠が書き込まれたものがしばしば見られる。

男性の手元にある紋章によって、この二人の男女は1436年に結婚したフィレンツェのLorenzo di Ranieri ScolariとAngiola di Bernardo Sapitiであると推定されたが、紋章が女性側のものである場合、1444年までに結婚していたFrancesca di Matteo ScolariとBonaccorso di Luca Pittiとする説もある。

同時期に描かれたリッピの《聖母戴冠》(ウフィツィ美術館所蔵)などと比較すると、本作品の人物描写は随分と一般化されている。リッピはこの肖像画を単なる結婚の記念や外見的特徴の記録としてではなく、抽象的な概念の理想的表現として描いた。

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