映画『フローズン・タイム』感想とフードの男考察。もしも時間を止められたら

内気な美大生の日常、スーパーでのバイト、過去の初恋エピソードなど、全体的にはゆるい雰囲気で進行しつつも、時折ハッとするような映像美やクセのあるキャラクターたちがアクセントになっていて、見た後に結構不思議な感覚を覚えた作品。

基本はラブストーリーだけどアート要素や青春コメディ要素もあり、主人公の成長物語でもある。

映像はファッション・フォトグラファーの経歴を持つ監督の美意識が随所に感じられる作りになっていた。

『フローズン・タイム』の作品情報

2006/イギリス/102分
原題:Cashback

スタッフ

  • 監督:ショーン・エリス
  • 脚本:ショーン・エリス

キャスト

  • ベン・ウィリス:ショーン・ビガースタッフ
  •  シャロン・ピンティ:エミリア・フォックス
  •  ショーン・ヒギンス:ショーン・エヴァンス
  • スージー:ミシェル・ライアン

『フローズン・タイム』のネタバレあり感想

主人公のベンが置かれた状況

2年半交際していたガールフレンドのスージーと別れ、数週間思い悩み続けている美大生のベン。全編を通して流れるベンのモノローグからもわかるように、彼はとても繊細で内省的な青年。内省的を通り越して、過去の失敗や後悔の念に強く囚われやすいタイプと言った方がいいかもしれない。

失恋の痛手から不眠症に陥った彼は夜の時間を持て余すようになり、そして、どうせ眠れぬ夜を漫然と過ごすなら、とスーパーの夜間スタッフを始める。余ってしまった時間を売った対価にお金を得る、つまり原題の『キャッシュバック』を始める。

とはいっても客足もまばらな深夜のスーパー、バイト中はそんなに刺激もない。だから同僚たちもみんなこの退屈な時間をどうやり過ごすかだけを考えて、8時間をなんとなく働く。

店長が休みの日に店内でキックボード大会をやってサボってたのはさすがに大丈夫なのか?と思ったが(笑)、このゆるさ、バカっぽさが失恋したベンと対照的。

気持ちが落ち込んで前向きになれないときに、まるで自分の日常が停滞しているように感じるということは、誰しも経験があるのではないかと思う。それでも世の中はいつも通りに動いているから、自分だけが過去に取り残されたような感覚にすらなる……ベンはまさにそういう状態だったのだろう。

ベンの幼馴染であるショーンはベンとは特に対照的なキャラクターで、次から次へと女の子に声をかけてはすぐフラれるんだけれど、いちいち落ち込んだりしない。ある意味今を生きてる人ともいえる。

そしてスージーも、ベンと別れてすぐに新しい彼氏を作っちゃう。

一方でベンはバイトを始めてもスージーが頭を離れず、時間の感覚が限界まで来た彼は、ついに「時が止まった世界」を体験することになる。

時を止めるとはどういうことか

突然停止した世界を自分だけ自由に動けるようになったベン。

これは本当に超能力なのか?それとも内面世界や妄想を表現したものなのか?と疑問がよぎるが、そのまま素直に、時間感覚が極限まで達したベンが体得した超能力でいいのだろう。時を止めて2日間考え込んだとき、彼の髭はしっかり伸びている。

時間停止のシーンにはベンのちょっと特殊な性格がよく表れていて面白い。
彼が時を止めてまでやることといえば、スーパーの女性客を脱がせてひたすらスケッチにいそしむ、たったこれだけ。

相手に無断で服を脱がせること自体がいいことではないんだけれど、黙々とスケッチに集中する彼の姿には自分が表現したいものに対する真剣さみたいなものも同時に感じてしまう。

幼少期の彼は当時下宿していたスウェーデン人女性の裸を見て、その美しさに衝撃を受ける。それ以来彼は女体の美の虜となり、それを表現すべく画家を志したのだった。だから彼にとって、女性の裸は性的なものというよりはインスピレーションの源泉であり、美を表現するために必要不可欠な対象なのである。瞬間の美を永遠のものにしたい。そう思って彼は静止した時間で、普段はじっくり観察することが難しい女性のヌードをスケッチし続けたのだろう。

やがて沈んでいたベンの心境にも少しだけ変化が起こってきて、レジ係のシャロンがだんだんと気になり始める。ロッカールームで二人きりでおしゃべりしているとき、ベンはこの瞬間を止めたいと強く願うのだが、緊張のためかどうもうまくいかない。ピュアだ……

ただ過ぎるのを耐えるだけの時間は果てしなく長く思えるのに、ずっと続いてほしいような楽しい時間はあっという間に過ぎ去るという相対性理論。本作はそういう時間感覚について、わかるなぁ~、って共感できるシーンが多い。

フードの男が意味するもの

支店対抗フットサルでのおふざけもバカバカしいんだけどどこか微笑ましい。やる気だけはある店長が俺たちは『グラディエーター』だとか言ってヒーロー気分ではしゃいでいるが、付け焼刃のチームワークで試合はボロ負けに終わってしまう。

印象的なのが試合中の静止した時間にいたフードを被った男。

ベンに気づかれて逃げてしまうが、止まっているはずの世界でなぜか動けるし、その後は登場することもないし、ちょっと気になる存在である。

「静止した時間を自由に動ける男はもう一人いた」でもいいし、「フードの男が止めた世界に実はベンの方が迷い込んでいた」とかでもいいんだけれど、私はもう一人のベンの姿なんじゃないかとも感じた。

映画が始まってからのベンはずーっと過去に囚われ、さらに退屈なバイトで時間の感覚がおかしくなるほどだったから、顔が見えないフードの男の姿で、過去に固執し凍った世界に一人残されたベンの心的状態を表したのではないかと。

フットサル試合の頃にはベンはすでにシャロンへの恋心を自覚して(=今に目を向け始めて)おり、「シャロンに惹かれている現在のベン」に見つかった「過去のベン」は逃げるようにその場を去ってしまった……というのが私の妄想。

その心境の変化に呼応するように、試合終了後、ベンは幸運にもシャロンを家まで送ることになって二人は急接近する。

時間とどう向き合うか

この映画の大きなテーマは「時間」だった。

パーティーでのちょっとした誤解でケンカ別れしてしまうベンとシャロン。時は止められても巻き戻すことはできないとベンは痛感する。ループものじゃない以上は、失った信頼はその後の行いで取り返していくしかないんだね……。

そんな彼が開いた個展のタイトルは『A Frozen Second(静止した瞬間)』

ベンにとって、最初は現実逃避の孤独な世界であった「静止した時間」はやがて彼が感じた一瞬の美を切り取るための場へ、ラストシーンでは二人の特別な思い出の瞬間へと変わってゆく。

「もしも時間を止められたら……」

多くの人が一度は考えること。
しかし止まった世界を一人だけ動けたって、結局は対話も生まれない一人ぼっちの世界である。
傷ついても一歩踏み出す勇気を持つこと。今この瞬間を大事にすること。素朴だけれどそういうメッセージも感じ、映画はさわやかにエンディングを迎える。

エンドロールにはRöyksoppの『What Else Is There ?』が使われており、浮遊感のあるメロディーが懊悩する内向的美大青年を描いた本作とびっくりするくらいマッチしている。

全体的に音楽のチョイスや照明の当て方、シーンのつなぎ等にセンスを見せながらも適度にふざけたシーンもあり、時間や美といったお固くなりそうなテーマを監督流の解釈でかなり見やすくまとめていて楽しめる作品だった。

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