ジョヴァンニ・ディ・パオロ《天地創造と楽園追放》

ジョヴァンニ・ディ・パオロ《天地創造と楽園追放》

作品図と詳細

ジョヴァンニ・ディ・パオロ《天地創造と楽園追放》

  • タイトル:天地創造と楽園追放(The Creation of the World and the Expulsion from Paradise
  • 作者:ジョヴァンニ・ディ・パオロ・ディ・グラツィア(Giovanni di Paolo di Grazia,c. 1403–1482)
  • 制作年:1445年
  • 種類:木の上にテンペラ、金箔
  • 寸法:46.4×52.1cm
  • 所蔵:メトロポリタン美術館

解説

ジョヴァンニ・ディ・パオロ・ディ・グラツィアはサセッタとならび15世紀のシエナ派を代表する画家の一人である。国際ゴシック様式や14世紀のシエナ派の伝統を引き継ぎながらも幻想的なヴィジョンを持った祭壇画や写本挿絵を残し、20世紀になって再評価された。

《天地創造と楽園追放》はもともとサン・ドメニコ聖堂のグエルフィ祭壇画のプレデッラ(装飾の最下部にあたる部分、裾絵)の一部と考えられているが、祭壇画の各構成部分は四散しており、全体の構成がどのようであったかは判然としない。

本作品は旧約聖書の「天地創造」と「楽園追放」の場面が同じ画面の中に描かれており、同心円状に広がる世界や宇宙を表したような巨大な円(世界地図、mappa mundi)がひときわ目立っている。

アダムとイヴをを追い出そうとしているのは、神が命の木の道を守らせるためにエデンの東に配置したというケルビムだろう。画面右下側の4つの太い線のようなものは、創世記2章10節にある通り、エデンから流れ出ているという4つの川(ピソン、ギホン、ヒデケル、ユフラテ)を表す。円の中心、地球を表す緑の部分の上方に山のようなものがあり、そこからも4本の川が流れている。

美術史家のローリンダ・S・ディクソンは、画面左上に描かれた神が指し示した位置に注目した。同心円の外側から2番目の円部分は星座を表しており、12時の方向には牡羊座、1時の方向には牡牛座のシンボルが描かれている。神はアダムとイヴへと視線をやりながら、牡羊座と牡牛座の間のあたりを指さす。これは、カトリックが受胎告知の日であるとしている3月25日を示していると考えられる。

ジョヴァンニ・ディ・パオロ《天地創造と楽園追放》部分

11時の方角に魚座のシンボルが確認できる。時計回りに牡羊座、牡牛座と続く。

パオロは、「天地創造」と「楽園追放」という旧約聖書に記された場面を描きながら、キリストの再臨をも同時に示す神を描くことで旧約と新約を結びつけ、アダムとイヴの背負った原罪が後にイエス・キリストによって贖われるということを強調している。

ちょっと考察 – 各同心円が意味するもの

パオロは本作品を手掛ける前に、ダンテ『神曲』の天国篇の写本挿絵を制作しており、本作品に描かれた円状の世界地図はダンテの宇宙観を引き継いでいると考えられる。

ダンテはプトレマイオスの天動説的宇宙観にならい、地球を中心として、10の区分からなる天国界を構想した。全体の構造は以下のようになっている。

  • 火焔天:地球と月天の間。地上で発生した炎が還る天。
  • 第一天 月天:天国の最下層にあたる。神への誓願を果たしきれなかった魂が置かれる。
  • 第二天 水星天:善を行ったが現世の名声に執着した者の魂が置かれる。
  • 第三天 金星天:激しい愛に生きた者の魂が置かれる。
  • 第四天 太陽天:知識人、賢者の魂が置かれる。
  • 第五天 火星天:キリスト教守護のために戦った戦士の魂が置かれる。
  • 第六天 木星天:現世で正義を行った者の魂が置かれる。
  • 大七天 土星天:瞑想を行い信仰に生きた清らかな者の魂が置かれる。
  • 第八天 恒星天:十二宮がある恒星が輝く天。地球と第七天までを包んでいる。
  • 第九天 原動天:第八天までを包み、諸天を動かす原動力となっている天。
  • 第十天 至高天:物理的な存在を超えた領域。天使や聖人が神の愛を象徴する「天上の薔薇」に集う。

パオロの《天地創造と楽園追放》で神が指し示す星座の部分は、ダンテの天国界に沿うと第八天となり、その外側の最も濃い青が第九天となる。そうすると、至高天である第十天は同心円状に描かれていないということになるが、至高天は神の領域なので、神とセラフィムたちを包む円状の光を至高天と考えるのが妥当だろう。

円の中で目立つ赤い部分はおそらく火焔天であろうから、次の円を第一天として同心円を数えるとぴったり第九天まであり、そして最後に神を中心とした光を第十天として描き、パオロはダンテ的な宇宙観を表現したと考えられる。

 

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