ハンス・メムリンク《受胎告知》

ハンス・メムリンク《受胎告知》

作品図と詳細

ハンス・メムリンク《受胎告知》

  • タイトル:受胎告知(The Annunciation
  • 作者:ハンス・メムリンク(Hans Memling,1430/1440年頃 – 1494年)
  • 制作年:1465 – 70年頃
  • 種類:木の上に油彩
  • 寸法:186.1×114.9cm
  • 所蔵:メトロポリタン美術館

解説

ハンス・メムリンクは初期フランドル派を代表する画家で、主にブルッヘで活躍した。ヤン・ファン・エイクやペトルス・クリストゥス、ロヒール・ファン・デル・ウェイデンの様式を受け継ぎ、ヘラルト・ダヴィトに強い影響を与えた。

メムリンクは存命中から人気があり画家として成功していた。同時代の画家と比較すると多作で現在も約100点の作品が残っており、甘美な聖母子像や真実味のある肖像画を多く制作した。

絵画主題としての「受胎告知」は、キリスト教絵画の中でも非常に人気の高い主題である。メムリンクの《受胎告知》は15世紀のフランドル絵画における受胎告知のシーンの多くがそうであるように、象徴的な意味に満ちた室内装飾をともなって表現されている。

祈祷台の前にひざまずき時祷書を読んでいたマリアは、イエスの誕生を告げるガブリエルの突然の来訪に驚き気を取られている。マリアの左手には蝋を引いた麻玉に火が灯されている。チャールズ・ミノットは火の灯った麻玉について、イザヤ書42:1-4(3節:また傷ついた葦を折ることなく、ほのぐらい灯心を消すことなく、真実をもって道をしめす。)を引き合いに出した描写だと解釈した。

ガブリエルは、聖体拝領のミサで助祭が身に着けるような美しい典礼服を身にまとった姿で描かれている。司祭風の装いのガブリエルが描かれるというのもまた初期フランドル派で見られる特徴の一つである。

真珠と宝石で装飾された冠の頂を飾る十字架と、ガブリエルの背中の孔雀の羽が、キリストの犠牲と贖い、そして永遠の命を強調している。

古代ギリシア人は「孔雀の肉は死後も腐敗しない」と信じていたので、孔雀は古くから不死のシンボルであり、その考えはキリスト教にも引き継がれた。また、孔雀の羽は繁殖期が終わった秋に抜け落ち、春になると再び美しい羽が生えてくることから、キリストの復活のシンボルとして用いられるようになった。ルネサンス期の受胎告知の絵画にはしばしば孔雀や孔雀の羽をもつガブリエルが描かれている。

窓から見える囲われた庭園、ドアの上の澄んだ水が入った水差し、そして金の花瓶に差された白い百合の花は、マリアの純潔を表すモティーフである。

メムリンクは1465年にブルッヘで工房を構える前に、ブリュッセルのファン・デル・ウェイデンの工房で働いていた。本作品はその頃に描かれたものであるとみられる。

絨毯とステンドグラスに描かれた二本の鍵の紋章から、本作品の依頼主は法学者でありブルゴーニュ公の大評議会員でもあったFerry de Clugnyであった可能性が高い。Ferryは彼の地元オータンの司教官に任命されるなどして教会的地位も高く、オータンのサン・ラザール大聖堂に自身の墓の礼拝堂(Chapelle Dorée)を建てた。本作品はその礼拝堂の装飾として制作されたようだ。

これは余談になるが、芸術家のパトロンとしても有名だったFerryは、1483年に故郷から遠く離れたローマで亡くなった。彼はメムリンクの《受胎告知》を含む、さまざまな美術品で美しく用意したであろう自身の礼拝堂ではなく、ローマのサンタ・マリア・デル・ポポロ教会に埋葬された。

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