ヴィットーレ・カルパッチョ《キリストの受難の瞑想》

ヴィットーレ・カルパッチョ《キリストの受難の瞑想》

作品図と詳細

ヴィットーレ・カルパッチョ《キリストの受難の瞑想》

  • タイトル:キリストの受難の瞑想(The Meditation on the Passion)
  • 作者:ヴィットーレ・カルパッチョ(Vittore Carpaccio, 1465年頃 – 1525年頃)
  • 制作年:1490年頃
  • 種類:木の上にテンペラ、油彩
  • 寸法:66.5×84.5cm
  • 所蔵:メトロポリタン美術館

解説

ヴィットーレ・カルパッチョはヴェネツィア派を代表する画家の一人。ジェンティーレ・ベッリーニに師事し、またアントネロ・ダ・メッシーナや初期フランドル派からも影響を受けた。自然豊かな風景描写を得意とした。

《キリストの受難の瞑想》は「死と復活」がテーマになっており、死せるキリストの頭上には魂を象徴する鳥が上空に向かって羽ばたいている。右側の男性は旧約聖書の預言者ヨブ、左側の男性はキリスト教の神学者である聖ヒエロニムス(347 – 420年頃)である。

美術史家のBlass-Simmenは、本作品はヴェネツィアのサン・ジョッベ教会のために描かれたと考える。本作品のヨブの姿は同じくサン・ジョッベ教会にあったジョヴァンニ・ベッリーニの《サン・ジョッベ祭壇画》(現在はアカデミア美術館所蔵)のヨブと類似しているため、右側の老人がヨブと推定できる(サン・ジョッベは聖ヨブのイタリア語読み)。

一方ヒエロニムスはシリアの荒野での隠遁生活の経験や、ライオンを友にしたというエピソードがあることから、背景に描かれたライオンや荒野の洞窟によって左側の男性がヒエロニムスであると特定できる。ヒエロニムスは聖書のラテン語翻訳を完成させ聖書の解説書を記した。台座に置かれた書物や椎骨の鎖がついたロザリオも祈りと瞑想を示すものである。

キリストの王座やヨブが座る台に描かれた文字は2013年の調査によってほとんど偽のヘブライ語であることが確認されたが、「イスラエル(ישראל)」という単語は識別が可能である。

キリストの大理石の王座の背もたれの左に留まっているのはゴシキヒワという鳥で、受難の象徴とされるアザミの種子を食べる習性があることから、ゴシキヒワもまたキリストの受難と関連付けられる鳥である。

背景の描写も「死と復活」というテーマを対比させている。

左側は墓石のような石板が立つ岩場の洞窟でヒョウが牝鹿に噛みつき、狼もまた鹿を狙っているようである。

右側の背景には緑豊かな自然が描かれ、ヒョウから逃げる牡鹿や、ウサギ、イタチ、オウムが描かれている。鹿が川沿いを走るのは、詩篇42章1-2節の「神よ、しかが谷川を慕いあえぐように、わが魂もあなたを慕いあえぐ。わが魂はかわいているように神を慕い、いける神を慕う。いつ、わたしは行って神のみ顔を見ることができるだろうか。」に由来する描写だろうか。

ヴィットーレ・カルパッチョ《キリストの受難の瞑想》

川の向こうには居住区があり、ターバンを巻いた人々の姿が見られる。
中東やオスマン帝国と関係が深い貿易都市ヴェネツィアで生まれ育ったカルパッチョは、しばしばこのようにエキゾチックなモチーフを入れた風俗描写をした。同じくカルパッチョの《キリストの埋葬の準備》(ベルリン美術館所蔵)はキャンバスにテンペラで描かれたものであるが、モチーフの選定や背景の描写について本作品と多くの共通点を見出すことができる。

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